国際物流はグローバル経済において重要な役割を担いますが、多くの課題に直面しています。これらの課題をどのように解決するかが、国際物流の成否を分ける要因です。
そこで今回は、国際物流の基本的な概念から課題点について詳しく解説します。国際物流ビジネスを展開する方は、ぜひ参考にしてください。
国際物流とは
国際物流とは、国と国の間におけるモノの流れを指します。具体的には、輸出入に伴う輸送、通関、荷物の保管、配送などを含めた一連の物流活動のことです。
国際物流は海外との輸出入が関わるため、通常に比べて多くの工数がかかります。また異なる国の法規制や文化的な違い、物流インフラの差異などの多くの課題を抱えています。
これらの課題に対応するためには、国際的な物流ネットワークの構築や先進技術の導入、効果的なサプライチェーン管理などが求められます。EC市場の成長やグローバル化の進展に伴って国際物流の需要は加速しており、今後もさらなる進化が期待されています。
国際物流のメリット・デメリット
国際物流は世界中の市場へアクセスできるため、企業にとって多くの機会を提供しますが、一方で挑戦も伴います。ここから、国際物流のメリットとデメリットを把握しましょう。
メリット
国際物流のメリットは、より多くの顧客に商品やサービスを販売できる機会が得られることです。昨今では国内市場が飽和状態にあり年々、競争力が高くなっています。自国の市場だけでは十分な売上が得られない場合でも、海外に展開することでリスク分散につながるでしょう。
とくに中東やインドなどの新興国は、経済成長が著しく人口も多いことから、市場ポテンシャルを秘めています。これらの国々に参入することで、新たな需要を見出せます。
また自国のニッチな商品も、海外では市場価値が高いです。日本の伝統工芸品メーカーが国外の市場に参入することで、高品質な工芸品を求める海外の顧客をターゲットにできます。
デメリット
成功すれば大きなリターンが得られる国際物流ですが、一方で次のようなデメリットも生じます。
- 輸入コストが増加する
- リードタイムが長い
- 手続きが煩雑になる
- 法規制や文化が異なる
国際物流では、国内物流に比べて輸送距離が長くなるため、その分コストが高くなります。航空便の場合は、船便に比べて輸送コストが大幅に増加するのが特徴です。
また、通関や検疫手続きなどの手続きにも時間を要します。これらの要因により、顧客に商品が届けられるまでに時間がかかってしまうのです。国際物流において、リードタイムを短縮することも課題に挙げられます。
さらに海外には、日本とは異なる法規制や文化があります。法規制の遵守や、国ごとの文化に合わせた十分な配慮が必要です。
国際物流の種類
国際物流における輸送手段には、海上輸送と航空輸送の2種類があります。それぞれの特徴を理解しましょう。
海上輸送
海上輸送は、国際貿易において一般的な輸送方法です。長距離輸送に適しており、大量の貨物を運ぶことが可能です。液体、固体、危険物など、さまざまな貨物に対応しています。
海上輸送はコンテナ船による輸送が主流ですが、ばら積み船やタンカーなどの船舶が利用されることもあります。輸送コストが比較的安価ではあるもののリードタイムが長く、天候や海上の状況に影響を受けやすい点はデメリットといえるでしょう。輸送方法によっては、荷物の破損や盗難のリスクも懸念されます。
航空輸送
航空輸送は海上輸送に比べてリードタイムが短く、迅速に届けなければならない商品や精密機器の輸送に適しています。フライトスケジュールが厳密に管理されているため、遅延が少なく安定した輸送が可能です。
また空港の厳しいセキュリティ体制により、貨物の盗難や破損のリスクが低いのがメリット。しかし海上輸送に比べてコストが高い点や、大型貨物の輸送には不向きである点はデメリットといえるでしょう。
国際物流の流れ
国際物流は、一般的に次のような流れで行われます。
- 顧客との販売契約
- 商品の梱包と出荷
- 輸出許可申請
- 通関手続き
- 船便もしくは航空便での輸送
顧客との販売契約が締結したら、注文情報にしたがい発送準備を進めます。国際輸送はリードタイムが長く、商品の破損リスクを伴うため、長期間の輸送に耐えうる梱包が重要です。
必要書類を揃えたら、輸出許可申請を行います。輸出する商品によっては、経済産業省や農林水産省などの許可が必要です。必要な書類を揃え、所定の手続きを行わなければなりません。
税関から輸出許可を得たら、船舶や航空機に荷物を積載し、海外への輸送が行われます。海外の港や空港に到着した貨物は輸入業者が荷受けを行い、最終的な届け先まで輸送されるのが一連の流れです。
通関手続きのスピードや輸送ルートの選定は、全体の時間とコストに影響を与えます。国際物流の効率は、上記のプロセスがどれだけスムーズに行われるかにかかっています。
国際物流の課題
国際物流は世界各国をつなぐ重要な役割を担っていますが、次のような課題も抱えています。
- 物流課程のブラックボックス化
- リードタイムの短縮が困難
- 手続きが煩雑になりやすい
- アクシデントによるリスク
- 言語の壁がある
物流システムを構築するうえで、これらの課題を理解して対策を講じることが重要です。課題点への理解を深めましょう。
物流課程のブラックボックス化
国際物流はプロセスが複雑化しやすいことから、「ブラックボックス」という課題を生み出します。国際物流では輸送状況や納期をリアルタイムで把握することが難しく、トラブル発生時の原因究明や対応に時間がかかってしまいます。
また、在庫管理や需要予測も困難になるため、無駄なコストが発生してしまうことも。解決策として、GPSトラッカーやRFID技術を利用した追跡システムの導入が推進されていますが、すべての国際物流で導入はされていない状況です。
リードタイムの短縮が困難
国際物流ではリードタイムが長くなりやすく、届け先への納品が遅れると顧客満足度の低下を招きます。特に海上輸送の場合は航空輸送に比べて大幅に長くなりやすく、いかにリードタイムを短縮するかが課題です。
対処するためには、複数の輸送手段を組み合わせたインターモーダル輸送の利用や、通関手続きのデジタル化による迅速化が有効とされています。また、生産や調達などの物流工程を連携させることでリードタイムの短縮を図るなど、多様な方法が実践されています。最適な輸送ルート選定を行うだけでなく、物流課程全体で改善を講じる必要があるでしょう。
手続きが煩雑になりやすい
輸出入には通関や検疫など、さまざまな手続きが必要です。国際物流の手続きは、複雑で煩雑な場合が多く、時間やコストがかかります。また国ごとに異なる法律や規制に適応する必要があるため、ミスが生じやすくトラブルを招くことも。
手続き上の負担やミスを減らすためには、標準的なマニュアルの作成や、通関業者の利用などの対策が取られます。しかし通関業者の利用には業務委託費用がかかるため、小口輸送には適していません。
アクシデントによるリスクが高い
国際物流では、輸送中の事故や盗難、自然災害などのアクシデントが発生するリスクがあります。これらのアクシデントは商品損傷や納期遅延につながり、顧客満足度の低下や売上機会の損失などの悪影響を及ぼします。
そのため輸送中の衝撃や振動に耐えられる梱包を施したり、輸送中のトラブルが少ない方法を選択したりといった方法で予防策を講じなければなりません。また、万が一に備えて輸送保険に加入することで、損失を補填する方法もあります。
言語の壁がある
国際物流において、海外の顧客とのやり取りは欠かせません。異なる言語を使用するため、意思疎通ができないと、コミュニケーションの齟齬が生じる可能性があります。
自動翻訳の活用はもっとも手軽かつ、低コストで実践できる方法です。しかし、翻訳の精度が低いと正確な意図が伝わらないことも。微妙なニュアンスを表現するためには、多言語に対応できる人員の配置や、翻訳サービスの利用が必要です。
とくに契約内容に関する内容でコミュニケーションに誤解が生じると、訴訟問題に発展するリスクもあります。そのため、言語の壁に対応できるよう慎重に体制を整えなければなりません。
国際物流の課題を解決するポイント
国際物流は多くの課題に直面していますが、効果的な方略を取ることで、効率的な物流を実現できます。課題を解決に導くためにも、下記のポイントを押さえましょう。
- SCM(サプライチェーン・マネジメント)を図る
- ロジスティクスの改善を行う
- 自社で物流DXを進める
- 物流アウトソーシングを活用する
それぞれのポイントを解説します。
SCM(サプライチェーン・マネジメント)を図る
サプライチェーン・マネジメント(SCM)は、調達から生産、物流、販売、アフターサービスまでのサプライチェーン全体を統合的に管理する手法です。そもそもサプライチェーンとは製品の原材料の調達から、顧客が商品を消費するまでの一連の流れを指します。
サプライチェーンの概念の特徴は、自社だけでなく他社も含めた物流の流れを捉えることです。モノが供給される動きを捉え、物流全体の改善を行うことを意味します。
サプライチェーン全体の情報共有を促進することで、全体を俯瞰できます。これにより、無駄な工程の削減につながります。物流工程を可視化することで、リスク管理や需要予測がスムーズに実施できるでしょう。
ロジスティクスの改善を行う
ロジスティクスとは、商品の調達から生産、輸送、販売、アフターサービスまでの物流活動を総合的に管理するものです。ロジスティクスの効率を向上させることは、国際物流のコストと時間を削減するだけでなく、顧客満足度の向上にも貢献します。
具体的には、下記のような施策で改善を実施します。
- 輸送ルートの最適化
- 追跡システムの導入
- 環境や安全への配慮
- 梱包や荷扱いの改善
- 従業員満足度の向上
ロジスティクスの改善を行うためには、輸送ルートの最適化や梱包、荷扱いの改善が重要です。改善に取り組むことで輸送コストの削減や、リードタイムの短縮につながります。
さらに、追跡システムの導入によりリアルタイムでの状況把握が可能となり、顧客への迅速な対応が実現するでしょう。また昨今では、環境や安全への配慮も欠かせず、持続可能な物流を目指すことが求められています。
人手不足に悩む物流業界では、従業員の負担軽減も課題の一つです。これらの施策を総合的に実施することで全体の効率性や物流品質の向上につながります。
自社で物流DXを進める
物流DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、ITを活用して物流業務を革新することです。近年、人手不足や労働環境の改善、顧客ニーズの多様化などの課題が深刻化しており、物流業界の持続的な成長のために不可欠な取り組みとなっています。
物流DXを推進することで、業務効率化につながり、サービス品質の向上をもたらします。具体的な取り組みは、次の通りです。
- WMS(倉庫管理システム)の導入
- TMS(輸送管理システム)の導入
- AIによる需要予測の活用
- IoTによる荷物の追跡
- ロボットによる自動化
物流DXを成功に導くためには、IT人材の育成や社内システム連携の強化、経営層の推進力などが必要になってきます。自社の課題に合わせて適切な手段を取り入れることで、物流品質や配送効率の向上など、さまざまな課題の解決に貢献するでしょう。
物流アウトソーシングを活用する
柔軟性が高く迅速な対応ができるのが、自社物流のメリットです。一方、長期的なコスト削減や効率化には、外部委託が有効な手段として挙げられます。
物流アウトソーシングを利用することで、商品の入出荷や輸送手配、流通加工などを一貫して委託することが可能です。国際物流においては、各国の税関当局に向けた書類作成や、輸出入の申告手続きといった煩雑化しやすい業務まで任せられます。
さらに物流業務をより包括的に取り扱うフルフィルメントサービスでは、代金の回収や顧客のカスタマーサポートといった業務まで対応してくれます。これにより、業務負担の大幅な削減やコストの最適化につながるでしょう。
関連記事:自社物流と物流アウトソーシングの違いは?メリット・デメリットも解説
まとめ:国際物流の課題点を克服して利益につなげよう
国際物流は単に商品を輸送するだけではありません。言語の壁や法規制などの多くの要素が絡み合う複雑な経済活動です。
グローバル市場で安定した成果を収めるためには、国際物流の課題に対処し、効率的なシステムの構築を目指していくことが大切です。国際市場での競争力を高められれば、利益の最大化につながるでしょう。
本記事の内容を参考に、課題点の改善や克服に活かしてください。