物流の流れに関わる費用を「物流コスト」と呼びます。近年、燃料費の高騰やECサイトの台頭による物流需要の増大により、物流コストが悩みの種となっている方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、近年の物流コスト高騰の背景や、費用削減のポイントを解説します。物流コストは内訳を把握して削減に取り組むことが重要です。物流コストの増大や、人材の確保に悩んでいる方はぜひ参考にしてください。
物流コストとは?
物流コストとは、物流事業における「物の移動に関わる費用全般」のことです。分かりやすいのはドライバーの人件費や配送運賃ですが、荷物を梱包するための資材や保管費用なども含まれ多岐に渡ります。
物流事業者にとっては、いかに配送品質を担保しながら物流コストを削減できるかが、利益を上げるためのポイントです。ここでは、物流コストの概要について以下の2点を解説します。
- 物流コストの算出方法
- 国内における物流コストの推移
物流コストは近年上昇傾向にあり、2024年問題の影響もあってコスト削減は多くの事業者にとって課題となっています。まずは自社の物流コストを正しく把握し、できるところから削減に取り組みましょう。
物流コストの算出方法
物流コストの算出は、3つの工程に分けて行います。
順番 | 手順 | 内容・ポイント |
1 | 内訳を明確にする | ・輸送費や保管費など機能別に分類して金額を算出する ・機材のメンテナンス費用やシステム利用料など物流に関わる費用を全て洗い出す |
2 | 支払い物流コストと社内物流コストに分類 | ・支払い物流コスト:配送料資材の購入費など他社に支払っている費用 ・社内物流コスト:システム維持費や人件費など自社の物流に関わる費用 |
3 | 全体の物流コストを明確にして削減に取り組む | ・どこにいくらコストがかかっているかを明らかにして一つずつ削減に取り組む ・支払い物流コストであれば金額交渉や取引先の変更 ・社内物流コストであれば生産性を上げる |
「どこにどれくらいの」コストがかかっているのか、全体像を把握する必要があります。算出された結果を元にコスト削減へ取り組みましょう。
国内における物流コストの推移
国内における、売上全体に占める物流コストの割合である「物流コスト比率」は、長期的には上昇傾向にあります。
公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(以下JIIS)の2023年度調査によれば、全業種での売上高物流コスト比率の推移は以下図の通りです。
2019年のコロナ禍を皮切りに、EC市場の拡大とあわせて物流コストが上昇しています。以下の2022年経済産業省による調査結果では、2019年以降物流需要が大幅に拡大しており、ドライバー不足や原油価格の高騰なども物流コストの上昇につながっています。
物流コスト比率は2021年をピークにわずかに改善されているものの、長期的には上昇傾向にあると見られています。そのため、各事業者は事業継続の観点から、物流コストを削減する努力が必要です。
物流コストのおもな内訳
物流コストの具体的な内訳を紹介します。おもな物流コストは以下の通りです。
- 輸送費・運送費
- 人件費・荷役費
- 保管費
- システム管理費
- 資材費・包装費
コストを算出する際には、上記以外にも基本的に物流に関連する費用はすべて含めるようにしましょう。
輸送費・運送費
配送費や運送費は、おもに以下を指します。
- 車両の購入費・維持費
- 配送業者の運賃
- ガソリンなどの燃料費
- 減価償却費
物流コストの中でも特に金額が大きくなる部分で、削減できれば効果も大きいでしょう。ただし、燃料費高騰や配送業者の運賃値上げなど予測が難しい部分です。
配送業者を配送地域によって複数使い分けたり、物流センターを活用して効率的に配送したりといった工夫が必要です。
人件費・荷役費
人件費や荷役費もコストがかかる部分です。荷物の積み下ろしや入出荷に関わる費用を「荷役費」とよび、作業時間が長くなるとその分費用がかさみます。
それ以外にもシステムを管理するスタッフの人件費など、荷物を直接取り扱わなくても、事業に関わる場合は人件費に含めましょう。ただし、人件費を削り過ぎると人材の確保が難しくなるため、安易に削減できないのが難点です。
ITツールの導入や機材の投資など、効率化によって生産性を上げていくことが重要です。
保管費
保管費は、荷物や商品を保管するための費用を指します。
- 倉庫の賃料・保管料
- 冷蔵・冷凍設備の光熱費
- 保管時の事故・火災等に備えた保険料
外部倉庫を借りている場合は、坪単価や荷物の体積によって保管料が計算されたり、荷役費用なども含まれたりとさまざまです。
一般的には荷物が大きく量が多くなるほど保管費用も増大するため、在庫量を調整するなどして保管効率を上げていくことが重要です。また、荷物の梱包規格を統一し、拠点を統廃合することも有効です。
システム管理費
荷役から配送にいたるまで、高度な物流管理システムを導入すれば効率化が図れますが、その分システム利用料などの費用が上昇します。たとえば以下のようなシステムです。
- 倉庫管理システム
- 受発注管理システム
- トラックの配車管理システム
- ネット回線使用料
- PCやハンディターミナル等の端末費用
各システムは導入費用以外に維持費もかかるため、どの程度の生産性アップが見込めるかを計算のうえ導入を進めましょう。
資材費・包装費
荷物の梱包に関わる資材の費用もポイントです。梱包用の箱や緩衝材、梱包テープにいたるまで多くの資材が業務で使用されます。
一点あたりでみると金額は小さめですが、月に数千件・数万件の出荷ともなると影響も大きくなります。ロット数を増やして単価を下げたり、梱包方法を見直したりといった対策を行いましょう。
物流コストが高騰する原因
物流コストが高騰する原因は主に以下の4点です。
- ガソリン価格や資材価格の高騰
- ドライバー不足
- 物流需要増加による管理コストの高騰
- 2024年問題の影響
燃料費の高騰など自社ではコントロールが難しい部分もあり、今後もさらに物流コストの高騰が予想されます。背景を抑えたうえで、物流費の削減方法を検討しましょう。
ガソリン価格や資材価格の高騰
原油や資材価格の上昇が、物流コスト高騰の要因のひとつです。ロシアのウクライナ侵攻によるロシア産原油の禁輸措置が主な原因となっています。
また、同様の理由で世界的にもインフレの傾向があり、資材価格の高騰も物流コスト増加に拍車をかけています。トラックの効率的な運用によって配車台数を減らし、燃料の効率を上げる取り組みを行いましょう。
ドライバー不足
急速な物流需要の高まりもあり、物流業界全体におけるドライバー不足が深刻です。経済産業省の2022年調査から、トラックドライバーの数は年々減少しており、平均年齢が上昇傾向にあることから新しくドライバーになる方も減っていることが分かっています。
トラックドライバーの年間所得額も全産業と比較して少なく、待遇改善が急務です。
ドライバーのなり手不足は配送業者の運賃値上げにも繋がっており、物流費高騰の一因となっています。
物流需要増加による管理コストの高騰
EC市場の拡大が2019年のコロナ禍以降加速し、物流需要が急速に増えたことも物流費高騰の原因です。また、荷物が増えることにより管理コストも増大し、物流センターや倉庫の需要増加にも繋がっています。
各事業者は人材や場所の確保を迫られ、事業継続のために以前よりも高いコストを支払って対応している状態です。ドライバー不足や管理コストの増加など、需要に対して供給が追い付いていないことがコスト増の原因となっています。
2024年問題の影響
2024年問題の影響もあります。2024年問題とは、2024年4月からトラックドライバーの時間外労働が、年間960時間に上限規制されることで発生する問題のことです。
規制が入ることによって労働時間が短くなり、従来運べていた荷物が運べなくなることが懸念されます。もちろん、長時間労働による重労働が問題視されていたドライバーの待遇改善につながるため、デメリットばかりではありません。
しかし、各事業者はドライバー需要の増加によって確保がさらに難しくなり、ドライバー側も残業代などの収入減に繋がるおそれがあります。2024年問題の対応のためには、荷役・荷待ち時間の削減や効率的な配送に業界全体で取り組むことが急務です。
物流コストを削減するためのポイント
物流コストを削減するための、具体的な方法を解説します。おもに以下の6点です。
- 作業フローや管理方法の見直し
- 過剰包装など資材の見直し
- 倉庫の拠点・規模・立地の見直し
- サプライチェーンの最適化
- ITツールの導入
- 物流業者へのアウトソーシング
物流コストの削減方法に悩んでいる事業者の方は、上記のポイントを意識して取り組んでみてください。
作業フローや管理方法の見直し
作業フローや、管理方法をゼロベースで見直しましょう。本当に必要な作業と、そうでない作業の棚卸を行い、業務全体の効率化を図ります。
その際は、システム導入なども合わせて検討してください。人の数だけで解決しようとすると、人件費が際限なく膨らみ利益が取れなくなるおそれがあります。
過剰包装など資材の見直し
過剰な梱包・包装を行っていないか見直してみましょう。何重にも渡って梱包したり、不要な緩衝材を同梱したりといった場合は要注意です。
さらに、資材そのものの価格を下げることも削減のポイントです。主に以下のような点をチェックしてみてください。
- ロットを増やして単価を下げられないか
- 資材の質を落として単価を下げられないか
- 取引先の変更や金額交渉ができないか
原材料費の高騰は世界的な流れです。そのため単純に価格を下げることは難しいですが、品質を下げたり生産量を増やすことで単価を下げられる可能性はあります。
まずは、自社で使用している資材をリストアップしましょう。
倉庫の拠点・規模・立地の見直し
倉庫の賃料や立地も見直してみましょう。一般的には、同じ広さや設備なら東京都内よりも地方の方が賃料は安くなります。
また、同じサイズの荷物なら配送先までの距離(都道府県)が遠いほど運賃は高くなります。複数の拠点を構える場合はリードタイムだけでなく運賃も合わせて検討しましょう。
さらに、倉庫の規模が広すぎたり、拠点が多過ぎたりといった場合も見直しが必要です。機能や商品別に倉庫を分け、できるだけ拠点数を減らせばその分物流コストの削減に繋がります。
物流倉庫は広大な敷地が必要になる場合が多く、家賃が高額になりやすいのがデメリットです。保管効率を上げて無駄なスペースを使わない対策を行いましょう。
サプライチェーンの最適化
サプライチェーンを最適化することで、物流コストの削減に繋がります。サプライチェーンとは、原材料の調達から流通にいたるまでの一連の流れのことです。
自社の物流部分だけでなく、製品の製造段階から効率化を図るのもおすすめです。たとえば、製品のサイズを宅配便の60cmからポスト投函可能なサイズに変更することで、1件あたり数百円の送料削減に繋がります。
原材料調達時の価格交渉や、廃棄の削減など、サプライチェーン全体の状況を把握して対策していくことが重要です。
ITツールの導入
さまざまなITツールを導入し、物流全体の効率化を目指しましょう。物流の流れを見直し、ITツールを活用して効率化やコスト削減を図ることを「物流DX(デジタルトランスフォーメーション)」と呼びます。
たとえば、トラックが荷受け・荷下ろしをする「バース」の予約システムを導入すれば、本来発生していた待ち時間や荷役時間の削減に繋がります。トラックや貨物にGPSトラッカーを搭載し、効率的な配車を行うのも有効です。
2024年問題が課題となっている近年では、こうしたITツールが着目されているため、検討してみてください。
物流業者へのアウトソーシング
物流業務の人件費が大きい場合や、設備投資などが難しい場合は、専門業者へのアウトソーシングもおすすめです。作業工数などによって料金は大きく変わるため、複数の業者に見積もりを取って比較しましょう。
アウトソーシングの利点は、物流センター・倉庫内で複数社の出荷業務を請け負っていることから、閑散期と繁忙期で適切な人員を配置しやすいという点です。自社で物流をまかなう場合、閑散期でも繁忙期と変わらない人数を確保しておく必要があるため、人件費が膨らみやすくなります。
また、アウトソーシングであれば物流の効率化に関するノウハウが豊富なので、自社で対応しきれない物流にも対応できるでしょう。手数料などの外注費と、自社で作業する場合のコストを比較して検討してください。
関連記事:自社物流と物流アウトソーシングの違いは?メリット・デメリットも解説
まとめ:物流コストの削減には物流DXやアウトソーシングも検討しましょう
近年では燃料費や原材料費の上昇、物流需要の拡大によって物流コストが拡大しています。2024年問題の影響もあり、ドライバーの確保が難しい中で、各事業者はコスト削減のために業務の効率化が急務です。
物流コストを削減するためには、ITツールを活用した物流DXや、アウトソーシングも視野に入れた抜本的な業務の見直しが重要です。まずは自社の物流コストがどの程度かかっているのかを算出し、削減できるところから取り組みましょう。