近年、インターネットの普及やスマートフォンの利用増加にともない、アパレルEC市場が急速に成長しています。
しかし、アパレルEC事業に興味はあるけど、実態や内容について詳しく知らないという方もいるでしょう。
そこで今回は、アパレルEC業界について掘り下げ、運営に際して克服すべき課題を解説します。
アパレルEC事業への参入を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
アパレルEC事業とは
アパレルEC事業とは、インターネットを通じて衣服や服飾雑貨を販売する事業のことを指します。
そもそもECとは「Electronic Commerce」の略で、電子商取引を表す言葉です。通信販売やネット通販と呼ばれることもあります。
アパレルECの例としては、「BEAMS」「SHIPS」のようなブランド直販型のサイトや、「楽天市場」「ZOZOTOWN」のようなモール系が挙げられます。販売員が顧客とやり取りすることはなく、すべてオンライン上で完結するのが特徴です。
アパレルECの市場規模
近年、アパレルEC事業の市場は急速に成長しています。
経済産業省の電子商取引に関する市場調査によると、2022年度の市場規模は前年度から3.47%増の2兆4,499億円に達しており、年々右肩上がりの成長です。さらにEC化率は21.56%と、全産業の平均EC化率9.13%を大きく上回りました。
市場規模が成長している大きな要因は、インターネットの一般化や、スマートフォンやタブレットの普及などです。また、SNSやアプリを通してシームレスな購入体験を提供する場が増えたことも起因しています。
アパレルEC市場は今後も、消費者のニーズの変化に対応したテクノロジーの進化により、さらなる成長が期待されています。
コロナ禍による市場動向の変化
近年のアパレルECの市場規模が急増している背景の一つとして、コロナ禍による影響は捨て置けません。
外出自粛により、インターネットを通じて買い物をする機会が増えたためです。これにより、EC化率の向上に大きく起因したものと考えられます。
オンラインでの買い物が一般化したことにより、価格や品質を重視する傾向が強まりました。口コミや情報の信頼性を重視し、商品の品質を見極める消費者が増えていることは注目すべき点でしょう。
また、単にEC化率への影響に留まらず、消費者のニーズや嗜好への変化ももたらしています。価格や利便性だけでなく、商品の持続可能性を考え、エシカルやサステナブルファッションへの注目が高まりつつあります。
これらの変化に対応し、消費者のニーズに合った商品やサービスを提供することが、アパレルECで勝ち残るためのカギとなるでしょう。
アパレルECの種類
アパレルEC事業を始めるには、まずどの形態で出店するかを考える必要があります。アパレルECの種類は、下記の通りです。
- ブランド直販
- ECモール系
- 自社販売
- フリマアプリ
- サブスクリプション
これらの特徴を把握しましょう。
ブランド直販
ブランド直販とは、D2C(Direct to Consumer)とも呼ばれており、メーカーやブランドが消費者に直接商品を販売するビジネスモデルのことです。
主に自社ECサイトやSNSなどを活用して販売します。メーカー自身が消費者と接点を持つことができることから、事業者にとって魅力的な選択肢であるといえるでしょう。
小売業者を介さないため、顧客データの取得が容易で、顧客との距離が近いことが特徴です。ブランド直販に際しては、オムニチャネル化やOMO戦略などによって、タッチポイントを増やす試みが重要視されています。
ECモール系
ECモール系は、楽天市場やYahoo!ショッピング、Amazonなどの複数のショップが出店する形態です。
月額手数料を支払うことで、簡単にECショップを出店できます。集客率が高いメリットがある一方、多くのショップが出店しているため、競争が激しくなりやすい特徴があります。
また、モールの運営方針に沿ったデザインや機能を使う必要があり、ECサイトを構築する場合に比べてショップの独自性を出すのは難しいです。
機能があらかじめ用意されているため、手間なく出店できる面ではメリットともいえるでしょう。ただし、顧客データが自由に取得できないため、データ分析やマーケティング活動に制限が生じる可能性があります。
自社販売
自社販売は、自社でオンラインショップを運営する形態です。なお、ブランド直販も自社販売に含まれます。モール運営者へ手数料を支払う必要がないため、利益率を高められます。
ただし自社で運用するため、システム構築やサイト運営にかかる維持費が必要です。デザインや機能を自由にカスタマイズできるため、ブランドイメージを表現しやすいのがメリットです。
また既存の販売チャネルを利用しないため、認知度や顧客基盤を築くのに時間がかかります。安定的な集客のためには、Webマーケティングや広告を合わせて実施する必要があるでしょう。
フリマアプリ
フリマアプリは、消費者同士が売買を行うCtoCのネットショップです。
アパレルECをフリマアプリで行うメリットは、初期費用を抑えながら簡単に始められる点が挙げられます。
ECモールや自社サイトでは、システム利用料や月額利用料がかかりますが、フリマアプリは継続的にかかる費用がありません。売買が成立したときにのみ、販売手数料がかかる仕組みです。
自社でECサイトを立ち上げる手間がかからないことから、手軽に始められて運用コストも抑えられます。小売業者を介する場合に比べて小規模になるため、大きな利益を生み出すには工夫が必要になります。
サブスクリプション
アパレルECにおけるサブスクリプションサービスは、近年注目を集めている新しい販売形態です。
従来のECとは異なり、定期的に月額料金を支払うことで洋服やアクセサリーをレンタルしたり、購入したりできるのが特徴のサービスです。
新しいファッションを気軽に楽しめてクローゼットを圧迫しないことや、コーディネート選びに迷う必要がない点で人気を集めています。顧客との継続的な関係を築き、安定的な収益が得られやすいのがメリットです。
しかし継続的に利益を出すためには、顧客離れを防ぎ、満足度の高いサービスを提供し続ける必要があります。
アパレルEC事業の業務内容
アパレルEC事業で行う業務には次のようなものがあり、その内容は多岐にわたります。
- 商品企画
- 商品の仕入れ
- 在庫管理
- ささげ業務
- 販売促進活動
- 出荷・配送
- 返品・問い合わせ業務
- マーケティング活動
ここから、それぞれの業務内容について理解を深めましょう。
商品企画
アパレルECで販売する商品は、小売店で仕入れる、自社で発注する、海外から輸入するなどの方法があります。いずれの場合も、ターゲットとなる顧客に響く商品を用意しなくてはなりません。
ターゲットの年齢層や性別、ライフスタイル、ファッション感度などを考慮して、どのような人に商品を販売したいのかを明確に設定します。
ターゲットのニーズを把握するために、市場分析や競合調査を行い、流行のファッションや自社の商品がどのように差別化できるかを検討することが重要です。
商品の仕入れ
企画に基づいて、顧客のニーズを満たせそうな商品を仕入れます。主に、下記の方法で行うのが一般的です。
- メーカーと直接交渉する
- 仕入れサイトを利用する
- 海外から仕入れる
メーカーと交渉して仕入れるメリットは、高品質な商品を安定的に調達できる点です。メーカーと関係を築くことで、自社のコンセプトに合致した商品を販売できるでしょう。
しかし小ロットには対応できない場合が多く、時間もかかりやすい点に留意すべきです。
また仕入れサイトは、EC事業者向けのサービスです。代表例に「SUPER DELIVERY」や「FASHION NET」などがあります。少量から仕入れ可能で、価格が安く抑えられるため、小規模なEC事業者に人気のある方法です。
それに対して海外輸入は、価格を抑えながらオリジナリティのある商品を仕入れる方法として優れています。しかし、輸送中の破損・紛失や遅延などのリスクや特有の手間がかかります。
これらのメリットやデメリット、特徴などを踏まえて、自社に合った方法を選定することが重要です。
在庫管理
在庫管理の主な目的は「商品の適切な保管」「在庫切れによる販売機会の損失防止」「過剰在庫の防止」の3つです。
これらを成し遂げるためには、商品特性を踏まえ、販売予測に基づいて適切に在庫管理をする必要があります。商品の売れ行きや季節性、サイズ展開などによって商品の回転率を予測し、適切な在庫量をキープすることが重要です。
過剰在庫になると、資金繰りの悪化を引き起こすリスクがあります。計画的に在庫管理を実施し、売れ残りのリスクを抑える必要があるでしょう。
関連記事:ECサイトの在庫管理システムとは?導入するメリットやおすすめツールを紹介
ささげ業務
ささげ業務とは、「撮影(さつえい)」「採寸(さいすん)」「原稿(げんこう)作成」の頭文字を組み合わせた略称のことです。ECサイトで販売する商品情報を記載する際の作業を指します。
商品の外観を写真で撮影する際は、特徴が分かりやすく伝わるように複数の角度から撮ることが重要です。採寸においては、着丈、肩幅、袖丈などの主要な部位のサイズを計測します。
また、商品の説明文も重要です。素材やデザイン、機能を分かりやすく説明するだけでなく、商品の魅力が伝わる文章を作成しなければなりません。
ささげ業務は、商品の売れ行きを左右する重要な要素です。商品の情報が正確で魅力的であるほど、購入やリピートにつながりやすくなります。
販売促進活動
販売促進は、商品の売上を伸ばすことを目的とした活動です。具体的には、割引セールやクーポンの配布、キャンペーンの実施などを行います。
期間限定でキャンペーンを行ったり、お得な割引を提供したりすることで、販売意欲を促進し、売上の向上を図ります。販売促進活動においては、ターゲットが魅力を感じるようなアプローチを考え、継続的にお得な情報を発信していくことが重要です。
出荷・配送
顧客の注文を受けたら、情報に基づいて受注処理を行います。その後、ピッキング、梱包、出荷、配送のプロセスを経て顧客のもとに商品が届けられます。
顧客満足度を高めるためにも、正確かつ迅速に商品を発送しなければなりません。ECの規模が大きい場合は、誤出荷を防ぐためにWMS(倉庫管理システム)やピッキングシステムの導入を検討します。
出荷・配送業務を物流業者にアウトソーシングする選択肢もあり、これによりEC事業者の負担軽減につなげられます。
返品・問い合わせ業務
顧客からの問い合わせや、返品の要望に対応します。
返品や交換に関する規約を分かりやすく掲載しておくことで、顧客がスムーズに手続きできるようになります。よくある質問やその回答をまとめたFAQページを設け、顧客が自分で問題解決できるようにするのも有効な方法です。
マーケティング活動
マーケティング活動においては、ターゲットを明確に定義し、そのニーズに合致した施策を企画することが重要です。
近年では、EC市場の拡大に伴い、オンラインチャネルでのマーケティング活動が活発化しています。SNSを活用したキャンペーンや、インフルエンサーマーケティング、Web広告など、さまざまな施策によって集客効果を高めます。
Webマーケティングにおいては、さまざまな手法やターゲティング機能が確立されているため、効率的な集客の実現に役立つでしょう。
アパレルEC業界の課題
アパレルECは適切な戦略を取ることで、大きな利益をもたらす可能性を秘めています。しかし一方では、次のような課題があります。
- 集客争いが激しい
- サイズやイメージ違いが起こりやすい
- 利便性が実店舗に比べて劣る
アパレルEC業界における課題について認識を深め、適切な戦略を取りましょう。
集客争いが激しい
アパレルECはオンライン上で手軽に商品を購入できることから需要が高まっていますが、競合他社の集客争いが激しい側面があります。
特にECモールでは、多くのブランドやショップが軒を連ねているため、顧客の目を惹くためには工夫が必要です。顧客は比較検討したうえで購入に至るケースが多いため、競合との差別化を意識しましょう。
独自性の高いサービスを提供したり、商品に付加価値を付けたりなど、差別化することで競争に打ち勝てます。
サイズやイメージ違いが起こりやすい
ECサイトでは、実際に商品を確かめられないため、サイズやイメージ違いが起こりやすいのがデメリットです。
アパレル商品のサイズは、S・M・Lといった形で表記されることが多いですが、ブランドやアイテムによって実際の着用感が異なることがあります。また、商品の色や素材も画面上と異なって見える場合があるため、イメージ違いが生じやすくなるのです。
このような問題に対処するためには、実寸サイズを明記し、できる限り正確な情報を提供することでカバーできます。顧客が商品について理解できるように工夫を施し、サイズやイメージの不一致を最小限に抑えるように努めることが大切です。
利便性が実店舗に比べて劣る
アパレルECでは実店舗に比べて、実際に商品を手に取って確かめたり、その場でショップ店員に相談したりなどが難しい面があります。
また、実際に顧客の生の声を聞く機会もないため、ニーズや満足度を調査することは難しい点にも留意すべきでしょう。そのため、いかに実店舗の利便性に近づけられるかが課題です。
昨今では、こうした利便性の問題を払拭するために拡張現実(AR)を用いたバーチャル試着サービスの提供が進められています。
これにより、オンライン上でもリアルなショッピング体験ができ、購買意欲を高める効果に期待されています。
また、商品レビューやライブチャット、SNSの公式アカウント、ダイレクトメッセージなどのさまざまなチャネルを通じて、双方向のやり取りができる場を整えることも重要です。
実店舗と併用する場合は、オフラインとオンラインを組み合わせたシームレスな体験を提供することも有効な戦略となります。
まとめ:アパレルEC市場の動向や課題を把握して事業を発展させよう
アパレルEC事業は競争が激しい一方で、大きな成長が見込まれる市場です。しかし成功するためには、緻密な戦略の展開が求められます。
顧客のニーズを正確に把握し、それに応じた商品とサービスの提供を心がけましょう。本記事の内容をアパレルEC事業の発展に役立ててください。