「EC物流の特徴や課題点、改善ポイントなどについて知りたい」とお考えではありませんか。
昨今、インターネットを介した商取引が盛んに行われており、EC物流を担う事業やEC物流センター等が増加しています。
このような背景から、隆盛するEC物流を取り巻く業界の動向や課題点に注目が集まっているのです。
そこで今回は、EC物流における業務の流れや業界の課題点、解決策について解説。
EC業界について関心がある方や携わっていく方は、ぜひ本記事を参考にしてください。
EC物流とは?特徴や現状など
ECは、Electronic Commerceの頭文字を取った言葉で、電子商取引と訳されます。
インターネット回線を利用して受発注を行う全般のことです。
自社運営のECサイトのほか、AmazonやYahoo!ショッピングなどのECプラットフォームがあります。
EC物流とは、電子商取引を通じて注文者に商品が届けられるまでの流れのことです。
次の3種類に大別されます。
- BtoB-EC:企業間の取引
- BtoC-EC:企業と消費者の取引
- CtoC-EC:消費者同士の取引
昨今、スマホで手軽に商品を出品できるフリマアプリやECプラットフォームが普及しており、ECへの参入ハードルが低くなっています。
さらにEC物流の特徴や現状について深堀りしてみましょう。
1.物流コストが増加
EC物流に限った話ではありませんが、物流業界の現状として、物流コストの増加が挙げられます。
物流コストには「輸送費」「保管費」「荷役費」「人件費」などがあります。
このうち、多くを占めるのが人件費です。
特に、運搬や輸送を行うドライバーの人材不足が指摘されています。
人材不足の背景には、EC普及の影響や労働環境の問題等が関係しています。
さらに、ガソリン価格の高騰により輸送費にも影響が出るなど、物流コストが増加。
増える荷物量に対応しきれなくなっている現状です。
人手不足への対策として、鉄道や船舶を活用したモーダルシフトや、他社との混載で輸送を共同して行う共同配送などへの取り組みが進められています。
2.複数モール運用の需要が拡大
複数のECプラットフォームに出店し、他店舗展開するケースが増えています。
Amazonや楽天市場など販売チャネルを増やすことにより、各モールに会員登録しているユーザーを獲得しやすいメリットがあるためです。
顧客とのタッチポイントが増えるため、売上増加に期待できるほか、出店されているサイトが閉鎖されたときのリスクヘッジにもなります。
このようなメリットから、複数モールでEC売上を伸ばす戦略が取られています。
3.BtoC利用による小ロット配送の増加
巣ごもり需要の高まりを受けてBtoC-ECの利用が増え、大きなマーケットへと成長しています。
BtoCの特徴は、小ロットになる傾向がある点です。
個人向けの荷物は必要なときに必要なだけ注文されやすく、少量かつ多出荷になります。
また、BtoCの市場が拡大している背景は、消費者の通販利用が増えたこと、BtoBに比べて業務の負担が軽く済みやすいことなどがあります。
BtoBの場合、営業などの対人業務が人に依存しやすい、業務が煩雑化しやすいなどのデメリットが生じます。
一方BtoCは、システムで自動化すれば受発注業務の負担軽減になり、利益率の見込みも高くなりやすいのです。
BtoC市場のEC化率は年々増加しており、今後さらに成長することが予想されます。
EC物流の流れ
商品が消費者の手に渡るまで、EC物流はどのように進められるのでしょうか。
主な流れは以下の通りです。
- 入荷・検品
- 保管・在庫管理
- 流通加工
- ピッキング・出荷検品
- 出荷・配送
それぞれの工程について詳しく見てみましょう。
1.入荷・検品
まず、販売する商品を入荷する作業からスタートします。
参入する市場やターゲットに合わせた商品を選び、適切な数量を仕入れます。
この際、間違いが起こらないよう必ず入荷検品を実施。
検品は、伝票に記載されている内容と、実際に入荷してきた数に相違がないかをチェックします。
検品を実施することで、出荷時のミス防止になり、商品の欠陥や動作不良などを見つけて対策できます。
2.保管・在庫管理
次に、入荷した商品を倉庫内に保管します。
商品は決められた場所に格納し、カテゴリごとに区分けしてすぐ取り出せるようにします。
保管は、商品の質を保たなければいけません。
湿気に弱い商品を取り扱うなら、除湿環境を用意。冷蔵食品や冷凍食品を取り扱う場合は、適切な温度に保つための倉庫設備が必要です。
また、商品を保管するだけでなく在庫管理も行います。
棚卸し作業などを実施して、商品の在庫数を把握し、不足があれば発注をかけるのも管理の一環です。
3.流通加工
商品の発送前に流通加工を施します。
流通加工とは、商品の付加価値を高めるための作業です。
具体的には、値札やタグ付け、ラベル貼りや帳票類の同梱、梱包作業などです。
梱包時は、商品が輸送時に壊れないよう適切な大きさの梱包資材や緩衝材を選びます。
また、購入者の要望に応じてラッピング加工を施すこともあります。
4.ピッキング・出荷検品
商品の注文を確認したら、商品をピッキングします。
ピッキングとは、出荷指示のあった商品を集める作業のことです。
ピッキングの種類は2つあります。
- トータルピッキング・・・複数の注文商品を同時に集める
- オーダーピッキング・・・注文ごとに商品を集める
EC物流の場合はオーダーピッキング(摘み取り方式)を採用することが多いです。
注文数が多い場合は、効率よく商品を集められるトータルピッキングが選択されることもあります。
出荷前は、集めた商品に誤りや不備がないかを確認するために検品を実施します。
5.出荷・配送
検品が完了したら、出荷・配送を行います。
出荷時には、宛名や住所に不備がないかを確認し、丁寧に処理することが大切です。
適切に消費者のもとへ運ばれるように、商品に適した配送方法を選択。
冷蔵食品であればクール便、割れ物であればその旨の記載をして、ヤマト運輸や佐川急便などの運送業者に荷物を引き渡します。
出荷時のミスはトラブルやクレームの発生につながるため、間違いが起こらないよう注意を払います。
関連記事:冷凍倉庫の賃貸料の相場は?メリット・デメリットや選び方を解説
EC物流業界の課題5つ
EC物流の流れについて解説してきましたが、全ての工程において滞りなく機能させることは難しいといえるでしょう。
業務フローにおいてトラブル因子を抱えているケースもあり、課題への対応力が必要です。
EC物流業界の課題は主に以下の5つ。
- 物流コストの圧迫
- 物流人材の不足
- 作業ミスの発生
- ニーズの多様化
- 物流の効率化が急務
それぞれについて詳しく解説します。
1.物流コストの圧迫
商品の入荷から消費者のもとに商品が届くまでに、人件費や倉庫の管理費、システム運用費など多くのコストが発生します。
また、建築費用が上昇したことで倉庫管理費の負担が増え、トラック運賃の値上がりやガソリンの高騰により輸送費を圧迫しています。
このような背景から物流コストが増加しており、ECで得た利益から物流コストを引くとわずかしか手元に残らないことがあるのです。
2.物流人材の不足
ECの需要が拡大したことで荷物の数が増え、物流を担う働き手が足りていません。
特に輸送や配達を行うドライバーが不足しており「数年後にはモノが運べなくなるかもしれない」と危惧されるほど、運送業界に大きな打撃をもたらしています。
需要が加速する一方で対応が追いつかなくなる可能性があり、業界全体に危機感が募っています。
3.作業ミスの発生
ミスが発生すると、消費者からの評判を落とすことになるでしょう。
インターネットを介して行われる売買は、口コミや評価が命取りになります。
ショップの信頼性を高めるためにも、似ている商品を間違えたり、品番を見間違えたりなどのヒューマンエラーの防止に努めなければなりません。
4.ニーズの多様化
手軽にインターネットで購買行動が完結するからこそ、消費者はさらなる便利さを求めています。
自分に合った配送方法や決済方法を選びたい、スピーディに配達してほしいなどの消費者のさまざまな期待に応えていく必要があるでしょう。
特に昨今では、コロナ禍や巣ごもり需要の高まりによって、インターネットやアプリなどデジタルを通じての顧客体験が求められています。
物流におけるニーズを読み取り、時代背景に合った商品やサービスの展開が必要です。
5.物流の効率化が急務
荷物量の増加や物流コストの圧迫などにより、物流業務の効率化が急務となっています。
円滑に業務を回していくために、EC物流の各工程に発生している負荷や業務のムラを改善しなければなりません。
しかし業務が繁忙を極めており、タスクをこなすので手いっぱいというケースも。
課題点が山積みの中、現状を打開するための施策が求められています。
EC物流業界の課題を解決するポイント5つ
これまで解説してきたように、EC物流業界において多くの課題があります。
しかし、工夫次第で課題を解決することも可能です。
EC業界の課題を解決するポイントは以下の5つ。
- 業務内容を単純化・標準化する
- 管理システムを導入する
- 競合他社との差別化を図る
- 物流アウトソーシングを強化する
- EC物流をアウトソーシング(外注)する
それぞれの解決方法を詳しく紹介します。
1.業務内容を単純化・標準化する
効率化に有効な施策が、業務内容の単純化・標準化です。
業務フローを見直し、複雑な工程や業務があれば、単純な形に変えましょう。
すべての業務を単純にするのではなく、特にムダな時間をかけている業務や作業を洗い出します。その際、作業環境も同時にチェックしましょう。
動線やレイアウトを最適化し、各工程間が最短で結ばれるように工夫します。
工程を見直して改善することで、リードタイムの短縮につながるでしょう。
2.管理システムを導入する
ミスの防止や業務効率化に役立つ管理システムの導入を検討するのもおすすめです。
EC物流で用いられる管理システムにはOMS(受注管理システム)やWMS(倉庫管理システム)があります。
それぞれの機能は以下の通り。
OMS(Order Management System:受注管理システム) | 商品の受発注を一元管理できるシステム。 機能は注文情報や在庫の過不足確認・入金や注文確認メールの送信等。 |
WMS(Warehouse Management System:倉庫管理システム) | 入出庫作業の正確性向上やスピードアップ実現・商品の在庫管理に役立つシステム。 機能は在庫管理や棚卸管理・検品処理等。 |
OMSは在庫数の把握や注文処理などの業務効率向上が図れるのに対して、WMSは入出庫やピッキングなどの物流業務をサポートするのに向いています。
どちらも倉庫内の在庫管理が可能ですが、OMSでは理論上の在庫、WMSは実在庫の管理となります。
WMSには、ロケーション管理や商品の品質区分といった物流業務に特化した商品管理機能が搭載。
OMSはそのような機能はありませんが、複数モールから受注情報や顧客情報などを読み取って一元管理の実施ができます。
つまりWMSは物流業務、OMSはEC業務の最適化を得意とするシステムです。
上記のようなシステムを導入すれば作業ミス防止につながり、業務の効率性を高められるでしょう。
3.競合他社との差別化を図る
EC物流業界が隆盛する中で、競合他社との差別化は避けられません。
消費者にとってEC業者を選ぶポイントは主に3点。
- 商品の質が良いか
- 早く届くか
- .料金が安いか
上記の項目は差別化が難しく、やがて価格競争へと発展してしまいます。
価格競争が加速すると業界全体の低迷を招くだけでなく、最悪の場合、経営破綻につながる恐れもあるでしょう。
このような事態を避けるために、商品の付加価値を高める工夫が必要です。まず業務の正確性を高め、対応スピードの向上や商品品質の維持に努めることが肝心です。
ECで取り扱う商品ラインナップを工夫したり、サービスの充実度を高めたりなどの施策で差別化を図りましょう。
4.物流アウトソーシングを強化する
物流アウトソーシングとは、物流業務を外部の専門業者に委託することです。
自社でアウトソーシングサービスを拡張すれば、利益拡大が目指せるでしょう。
近年のEC物流では、物流機能をすべて外注する3PL(サードパーティロジスティクス)や、ECサイト管理から決済業務まで請け負うフルフィルメントサービスのニーズが高まっています。
フルフィルメントサービスでは物流業務だけでなく、注文を受けてから消費者の元に届ける一連の業務を担います。
アウトソーシング事業を展開しているのであれば、さらなる拡大を図るのも一案です。
5.EC物流をアウトソーシング(外注)する
業務が多忙を極めている割に利益率が伸びないのであれば、EC物流のアウトソーシングを検討してみましょう。
外注することで、物流コスト削減につながります。
EC物流にかかる主なコストは「倉庫管理費」「人件費」「梱包資材費」「配送料」などです。
自社物流の場合は人材確保が必要なため、出荷数にかかわらず人を雇用しなければなりません。
また、在庫数が多い時期に合わせて倉庫を借りていると、在庫が少ないときのスペースが余分に生じます。
しかしEC物流をアウトソーシングすれば、在庫数や発送個数に合わせて料金が決まるため、支払いは最小限に抑えられます。
物流業務にかけていた時間を他の業務に割くことで、利益率拡大につなげられるでしょう。
EC物流の仕組みや動向を理解するなら書籍もおすすめ
EC物流について深く理解したい場合は、書籍を読んでみると良いでしょう。
専門家が監修しているので、幅広い知識と信頼性の高い情報が得られます。
EC業界の動向や物流の変遷、流通の流れなどが詳しく解説されている専門書は、下記の書籍がおすすめです。
EC物流を担う企業の事例やデータをもとに物流の知識を深掘りしているので、ベースとなる業界全体の仕組みが理解できます。
これからEC物流業界で活躍していきたい人は、上記のような専門書を手にとってみましょう。
まとめ:EC物流の課題を解決すれば顧客満足度の向上につながる
業界全体の需要が高まっている中で、物流コストの増加や人手不足などが課題点として浮き彫りになっています。
しかし、課題点から改善点を見つけ出して行動を起こせば、業務効率化や売上拡大につなげられます。
また多様化するニーズを読み取り、差別化を図ることで、顧客満足度を向上できるでしょう。
そのためには、EC物流業界を取り巻く現状や特徴について深く理解することも肝要です。
本記事を参考にしたり専門書などを読んだりしながら工夫を重ね、事業の成長を実現させてください。