営業倉庫における水面倉庫とは?外注できる依頼先3社も紹介

営業倉庫の一種である水面倉庫は、原木などの木材を水面で保管するための特殊な倉庫です。水面倉庫の利用は、木材の乾燥による品質低下を防ぐために有効です。原木を水中で管理するので「水中貯木庫」「水面貯木庫」「水中乾燥」などと呼ばれています。

しかし、設置や管理には高度な専門知識と設備が求められます。日本では約1,200年前から河川を使って木材を移動させ、水面で保管してきましたが、現在は希少な方法です。

本記事では水面倉庫の定義や特徴、木材を水面で保管するメリットとデメリット、さらに水面倉庫事業を行っている企業についてお伝えします。

営業倉庫の水面倉庫とは?

水面倉庫は、営業倉庫の中でも特殊な形態を持つ施設です。文字どおり水の上にある倉庫で、保管するのは原木です。水面倉庫を設置するには保安上の条件をクリアする必要があります。ここでは、以下3つの項目について解説します。

  • 水面倉庫の定義と特徴
  • 水面倉庫設置に必要な3つの条件
  • 木材専用水面倉庫は年々減少している

それぞれ詳しく見ていきます。

水面倉庫の定義と特徴

水面倉庫とは、第5類物品(原木など)を海や河川などの水上で保管する倉庫のことです。一般的に思い浮かぶ倉庫のように屋根や壁に囲われておらず、年中雨風にさらされている保管方法となります。

おもな特徴は以下があげられます。

  • 水中保管により木材の乾燥を防ぐ
  • 大量の木材を効率的に保管できる
  • 木材の品質劣化を最小限に抑える

具体的には原木に重りを施し、水の中に浸けて半年以上保管します。この方法は木材の品質保持に効果的であるとされ、長年にわたり木材業界で重要な役割を果たしてきました。

実際に、三重県伊勢神宮の20年に1度の建て替え(式年遷宮)の御用材は、3年間水中に浸けた木材を使用しています。

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水面倉庫設置に必要な3つの条件

水面倉庫は陸地の倉庫と異なる設置条件があります。倉庫業法施行規則第三条の八で定められた必要な条件は、以下の3つです。

水面防護措置周囲を築堤や工作物で囲う必要がある※
高潮の影響を抑えて木材の破損や流出を防ぐため
流出防止措置木材の流出防止のため、木材を防護施設につないだり杭を打つ措置が必要
昭和34年の伊勢湾台風では港の材木場から木材が流出し、大きな被害をもたらした
水面倉庫から二次災害を発生させないためにも設置条件の厳守は必須
照明等防犯措置照明は防犯上の問題と作業性・安全性の確保のため義務付けられている
防護施設周辺部は2ルクス以上の明るさが必要

これら3つの条件を満たすことで初めて水面倉庫を設置し、木材の保管が可能となります。

木材専用水面倉庫は年々減少している

国土交通省:平成18年度倉庫事業経営指標(概況)
国土交通省:令和4年度倉庫事業経営指標(概況)

水面倉庫はかつて木材保管に欠かせない存在でしたが、近年は減少傾向にあります。国土交通省の実態調査によると、平成18年度の12社に対し、令和4年には半数以下に減っています。

減少の原因は人工乾燥技術の台頭や輸入加工木材の普及、コスト高・保管場所の確保が困難、時間がかかることなどです。もともとあった水面倉庫は埋め立てられ、陸上倉庫や太陽光発電所に変わっています。

また、きれいな水場の確保が難しいため参入障壁が高く、水面倉庫を新設する場面はほぼありません。しかし、水面倉庫には独自のメリットがあり、一部の企業ではその有効性を認識し続けています。

木材を水面で保管するメリットとは

水面倉庫による木材保管は、独特のメリットを持っています。これらは高品質な木材を求める企業にとって、魅力的な選択肢となる可能性があります。以下は、具体的な5つのメリットです。

  • 水中での長期保管により水中乾燥させられる
  • 干割れや日焼けを防ぐ
  • 反りやねじれを軽減する
  • 陸上にあげてからの乾燥が早い
  • 不純物が流れて木材がきれいになる

詳しく見ていきます。

水中での長期保管により水中乾燥させられる

日本古来は河川を使って木材を運搬してきました。水中での長期保管は、木材に独特な乾燥効果をもたらします。この過程は「水中乾燥」と呼ばれ、木材の品質向上に大きく寄与します。水中乾燥とは、木材を水中で保管し、陸地での乾燥時間を短くすることです。

水中に木材を沈めると、浸透圧の作用により細胞壁が破壊され、細胞内に水が浸入します。白身(表皮に近い若い部分)と赤身(中心部の赤い部分・心材)の水分含有量が同等になるのです。水分含有量が均一だと、陸地での乾燥時に水が抜けやすくなり、時間短縮につながります。

水中での保管は半年〜数十年と長期保管が可能です。しかし、保管期間が短すぎると水分が均一にならず、水中乾燥の効果は得られません。

干割れや日焼けを防ぐ

通常、木材を陸上で保管する場合、急激な乾燥により表面に亀裂(干割れ)が生じやすくなります。また、直射日光にさらされることで変色(日焼け)が起こる可能性も。

水中保管では木材全体が水に浸されているため、急激な乾燥を防ぎます。木材の表面が水分で満たされた状態を保つことで、表面と内部の乾燥速度の差が最小限に抑えられます。これにより、干割れのリスクを大幅に低減可能です。さらに、水中環境では酸素の供給が制限されるため、腐朽菌の繁殖も抑制されます。

外的要因から木材を保護できるため、木材の外観を美しく保てます。とくに高級家具や建築材など、外観の美しさが求められる木材の保管に最適です。

反りやねじれを軽減する

木材は乾燥すると収縮する性質を持ち、木材の白身と赤身の水分含有量が違うことから、乾燥の際に収縮具合に差が生まれて反りが生じます。

木材内の水分量が部位ごとに異なることが、反りやねじれの原因です。水分が少ない部分から収縮するため、木材が変形してしまいます。対して、水面保管した木材は乾燥後、反りやねじれが生じにくくなります。

これは、水中に木材を浸けると水の浸透圧で木材の細胞壁が破壊されて細胞内も水で満たされ、木材全体の水分量が均一になるためです。水面保管せず自然乾燥した木材は、木材内の水分量が均一にならず、反りやねじれが発生しやすくなります。

陸上にあげてからの乾燥が早い

水中保管された木材は、陸上に引きあげたあとの乾燥速度が通常よりも速くなります。水中に木材を浸すと木の細胞壁が浸透膜として機能し、細胞内の水分を排出しやすくなるといわれています。

かつては木材を川に浮かべたまま、ゆっくりと乾燥させる手法が用いられていました。これは、木材を陸上で乾燥させると、中心部と周辺部で乾燥速度に差が生じ、ひび割れが生じやすいためです。水中乾燥はこのような問題を防ぎ、高品質な木材を安定的に供給するために古くから活用されてきた知恵といえます。

不純物が流れて木材がきれいになる

水面倉庫で保管される木材は水によって細胞内が満たされるため、とくに若い細胞が多い白身部分の水分が適度に抜けます。この過程で木材のアクやヤニが自然に洗い流され、木材の見た目や質感が向上します。

また、水面保管は木材の生物的劣化の防止も可能です。生物的劣化とは虫の食害や菌の増殖による劣化のことです。木材には木を腐らせる「腐朽菌」が潜んでいます。腐朽菌が増殖すると木は腐敗してしまいます。

しかし、水面保管すると腐朽菌が酸素不足で死滅するので保管中に木が腐敗することはありません。虫も同様に酸素不足で死滅します。陸揚げ後も木材中に腐朽菌や虫がいないので、劣化リスクの軽減が可能です。

木材を水面で保管するデメリット

水面貯木は木材の品質保持に多くのメリットをもたらしますが、一方で、以下2つの課題も抱えています。

  • 木材の流出など河川環境を悪化
  • 加工したものを輸入したほうが低コスト

詳しく説明します。

木材の流出など河川環境を悪化

最も懸念されるのは、木材の流出リスクです。大雨や洪水時に木材が流されると、下流域での被害や環境破壊につながる恐れがあります。

木材から溶出する成分も問題です。木材を水面で管理するため、木材のチリやホコリ・アク・ヤニなどが水中に流出してしまいます。また、タンニンなどの有機物質が水中に溶け出すことで、水質の悪化や水生生物への影響が懸念されます。

さらに、大量の木材が水面を覆うことで、水面下の光環境に変化が生じるでしょう。これにより、水中植物の生育に影響を与え、ひいては魚類などほかの生物の生息環境も変化させかねません。そのため、木材の流出防止対策や水質管理の徹底など、環境保全への配慮が不可欠です。

加工したものを輸入したほうが低コスト

水面貯木は、木材の品質保持に優れている一方で、コスト面では輸入木材に比べて不利な場合があります。輸入木材は、海外の安価な労働力や大規模な生産体制により、低コストで供給されることが多いためです。

とくに、近年では、木材の加工技術が進歩し、高品質な輸入木材が安価に入手できるようになっています。ただし、高品質な国産材へのニーズや、地域経済への貢献を重視する観点から、水面貯木を継続する意義も依然として存在します。

水面倉庫事業を行っている会社

水面倉庫事業は、特殊な技術と設備を要する分野です。以下、代表的な3社について紹介します。

  • 株式会社ヤトミ製材
  • 中部木材倉庫株式会社
  • 天龍木材株式会社

現在この事業を展開している企業は限られていますが、それぞれが独自の強みを持ち、木材業界で重要な役割を果たしています。

株式会社ヤトミ製材

https://yatomiseizai.com/
会社名株式会社ヤトミ製材
会社所在地愛知県弥富市楠1丁目38番地
業務内容製材事業/水中乾燥事業/文化財保護事業

愛知県弥富市で120年続いており、大手楽器メーカーから家具・建築・社寺仏閣まで、幅広い実績を誇る会社です。現社長が5代目を務め、業種・ジャンル問わず常に挑戦することを心がけており、多くのノウハウを蓄積しています。

水中乾燥を継承し続け、2019年に水中乾燥事業を改めてスタートしました。現社長は「水中乾燥技術を守りたい」「水中乾燥技術を広く知ってほしい」という思いで経営しています。

>>株式会社ヤトミ製材の詳細はこちら

中部木材倉庫株式会社

https://chumokuso.co.jp/index.html
会社名中部木材倉庫株式会社
会社所在地愛知県名古屋市港区浜2丁目3番1号
業務内容水面倉庫業/通関業

名古屋港の西部木材港(海部郡飛島村〜弥富市)に、約55万坪の水面貯木場を有する会社です。その貯木場を輸入貨物の保税蔵置場、および輸入木材消毒実施区域の水面倉庫として利用しています。

名古屋市無形民俗文化財にも指定された「筏師一本乗り」を、所属する愛知筏業連合会および名古屋港筏師一本乗り保存会のメンバーとして協力・応援しています。

>>中部木材倉庫株式会社の詳細はこちら

天龍木材株式会社

https://www.tenryu.co.jp/about/
会社名天龍木材株式会社
会社所在地静岡県磐田市宮本350番地
業務内容原木・木材製品販売/各種建材製造販売/プレカット/育林事業

静岡県磐田市に本店を置き、営業所は東京都や大阪府・愛知県・宮城県・静岡県・新潟県と、幅広く展開している老舗木材会社です。創立は明治40年(1907)で、100年以上の歴史があります。国内営業所のほかに、カナダにもグループ会社(天龍カナダコーポレーション)がある大企業です。明治初期から社有林があり、木材の運搬に河川を利用していました。

世界各地の原木や製品・加工製品などを、現地供給会社および加工メーカーと積極的に情報交換を行い、常に安定した原木・製品の供給を心がけています。

>>天龍木材株式会社の詳細はこちら

まとめ:水面倉庫を外注できる会社は少ない

水面倉庫は木材の品質維持に効果的ですが、外注できる企業は極めて限られています。高度な専門知識と設備が必要なため、一般的な倉庫業者では対応が困難です。設置には複雑な条件を満たす必要があり、木材需要の変化や港湾の土地利用の変化により、需要自体も減少傾向にあります。

このため、水面倉庫事業を専門的に行う企業は非常に少なく、外注先を見つけることは容易ではありません。利用を検討する際は専門業者の少なさを念頭に置き、慎重に計画を立てることが重要でしょう。

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