ベンダーロックインとは?問題点と対処法を解説
公開日:2023.11.16 最終更新日:2023.11.16
経済産業省が発表している「DXレポート」では、2025年までに現状のシステムを入れ替えできなければ経済損失が生じる可能性が高いと示しています。DXレポートを受けて、DX推進に取り組む企業や自治体が増えてきました。
しかし、システムの新規導入に際し内部に特定の企業のサービスや製品が組み込まれているケースも多く、特定のベンダーに依存する結果に陥る企業も少なくありません。
システムの導入にあたり特定のベンダーに依存しなければならない状態をベンダーロックインと呼びます。本記事を読んでベンダーロックインはどのような状況で発生するのか要因を正しく理解しましょう。さらに、問題点と対処法と未然に防ぐ方法も紹介しますので、ベンダーロックインに悩んでいる方は最後までご覧ください。
ベンダーロックインとは
ベンダーロックインは業務や情報システムの仕様が、構築したベンダーの仕様に依存する状態を指します。現在使用しているシステムから他社システムに変更できず、同じベンダーの製品を使い続けなければなりません。 ベンダーロックインには2つの種類があります。
- コーポレートロックイン
- テクノロジーロックイン
それぞれの内容と違いを見ていきましょう。
コーポレートロックイン
コーポレートロックインは、業務システムが現在のシステムを開発したベンダーに依存している状態になります。提携しているベンダーは、企業側の業務やシステムの内部まで熟知しています。他社に同様のシステムの開発を依頼するには、改めて事業や業務について説明しなければなりません。
ベンダー側の理解度を高めるのと、システムを一から構築するための時間も開発コストもかかります。そのため、他社への乗り換えが出来ず、同じベンダーを利用する状態を継続してしまうのです。
テクノロジーロックイン
テクノロジーロックインは、一部もしくは全部が独自仕様で作成されているシステムの状態を指します。独自仕様とはたとえばシステムの動作条件に、指定された一部のメーカーの機器を使用しなければならない状況のことです。
ほかのケースでは、組み込まれているクラウドサービスが独自の設計になっており、ほかのクラウドサービスでは対応できない場合もあります。結局、一度導入した製品を使用し続けなければならず、テクノロジーロックインに陥ってしまうのです。
ベンダーロックインの問題点
ベンダーロックインの状態が続くと、システムを運用するうえで様々な問題点が浮上します。本記事では次の5つの問題点を解説します。
- 交渉が不利になる
- 要件や要望が通りにくくなる
- コストが高騰する
- システムの刷新が困難になる
- DX化を妨げる
どのような問題点があるのか見ていきましょう。
交渉が不利になる
システムの入れ替えを検討し、他社から相見積もりを取ろうにも独自の条件に対応できないケースもあります。 既存ベンダーの独自の技術が組み込まれていると、ほかのベンダーはシステムを理解する方法がありません。
新規での開発が必要になり、システムに対する開発規模の算出ができない場合もあります。
独自の技術を補完するために開発コストが高額になったり、システムの内容を理解できないため交渉が不利になる可能性もあるでしょう。
要件や要望が通りにくくなる
ベンダーロックインの状態にあるシステムを開発したベンダーは、他社への乗り換えが起きづらいことを理解しています。そのため、改修や改善といった前向きな提案をしない恐れもあるでしょう。
コスト削減やシステムの改善要望が通りにくくなる可能性もあります。ほかのシステムへの移行が難しいからこそ、運用・保守コストの価格を上げられるかもしれません。ベンダー側の立場が強いため、要望が通らない場合や不誠実な対応をされても、システムを使い続けるしかない状況に陥りがちです。
コストが高騰する
ベンダーロックインにより、既存のベンダーへの依存状態が継続します。システムの費用面の交渉や改善を要求されたとしても、独自性のあるシステムでは他社では対応できないか移行費用は高額になるため、競争する必要がありません。高額な費用で金額に妥当性がない場合でも、対応しなければならない状況に陥る可能性があります。
システムの刷新が困難になる
DXの推進に伴い最新の技術を活用したシステムに乗り換える企業も増えていくでしょう。AIを活用したシステムもどんどんリリースされています。システムがベンダーロックインの状態が続いている企業は、システムを刷新したくても開発コストも膨大になってしまうでしょう。
そのため、システムの刷新が困難になるリスクが高まります。古いシステムを使い続けると、セキュリティが乏しいという問題が生じます。
DX化を妨げる
DXはIPA(情報処理推進機構)の定義によると「デジタル技術の活用によって企業のビジネスモデルを変革し、新たなデジタル時代にも十分に勝ち残れるように自社の競争力を高めていくこと」です。デジタル時代に勝ち残れるように競争力を高めていくためには、様々なシステムとの連携が不可欠です。
しかしベンダーロックインの状態だと、他社システムやサービスとの連携の足かせとなる場合があります。ベンダーロックインがDX化を妨げる要因となってしまうのです。その結果、レガシーシステムを刷新できず、競争力を高める機会を失ってしまいます。
ベンダーロックインが発生する理由
ベンダーロックインが発生するのは、どのような理由からなのでしょうか。ベンダーロックインが発生する代表的な理由を4つ紹介します。
- 自社業務が独自・特殊である
- ドキュメントが整備されていない
- 特定のソリューション独自の技術でシステムを構築している
- 担当者に知見がなくベンダーに丸投げしている
それぞれ詳しく解説します。
自社業務が独自・特殊である
自社の業務が独自かつ特殊な場合、使用する業務システムも業界特有のものを使用するでしょう。ほかには商慣習なども独自性が強ければ、ベンダーロックインの原因になります。
パッケージシステムで業務内容をカバーできず、自社業務に合わせてスクラッチ開発をしたシステムを導入してきたケースです。
業務プロセスや社内ルールの見直しをせず、非効率な工程でシステムが組まれているような特殊なケースもあるでしょう。新たに同様のシステムの開発を検討しても、コスト面が高額になり要望通りのシステムが開発できない問題も発生します。
ドキュメントが整備されていない
業務システムを導入した際、設計書や仕様書を作成します。この設計書や仕様書は通常、カスタマイズされるたびに更新するものです。これらが古い状態のままで更新されていない場合も、ベンダーロックインの原因となり得ます。
ほかにもシステムをカスタマイズした際、仕様書が開発当初のままで更新されていなければ、どのような変更が加えられたのか判別できません。正確な仕様を理解するために調査するための工数がかかるため、調査費用が別途かかるためコストが高額になります。システムの仕様が不明で、移行ができない場合もあるでしょう。
そもそも設計書や仕様書がなく、追加開発分の仕様書のみが残っている場合も同様にベンダーロックインの原因になると考えられます。追い打ちをかけるように社内でシステムに精通しているメンバーが不足もしくは在籍していないと、保守や運用をすべてベンダーに丸投げしているケースもあるでしょう。社内でシステムの詳細を把握できておらず乗り換えそのものが不可能な場合もあります。
特定のソリューション独自の技術でシステムを構築している
ベンダー側が使用している独自の技術でシステムを構築しているケースも多く見られます。
独自の技術を使用してしまうと、新しくシステムを入れ替える際にほかの技術に移行するのが困難になります。
新規にシステムを構築する場合、現行のベンダーの技術を理解しなければなりません。それには高額なコストが発生するだけでなく、システム構築の期間も通常より長引くでしょう。
担当者に知見がなくベンダーに丸投げしている
社内担当者にシステムの知見がなく、ベンダーに対応を一任しているのも、ベンダーロックインを発生させる要因になります。業務システムは個人情報や機密情報を扱います。そのため、セキュリティ面から社内規定が定められます。
社内担当者にシステムの知見がない場合、システムの設定から社内規定の作成までベンダーに依頼していませんか?システムの内容を理解していないことが原因で、社内規定そのものがベンダー側の意向に沿ったものになってしまう可能性もあります。
ベンダーロックインから脱却する方法
DX推進を阻害するなど、様々な問題のあるベンダーロックインの問題を解決するにはどのような方法があるのでしょうか。代表的な4つの方法を紹介します。
- ベンダーロックインの状況と原因を把握する
- 自立支援が期待できるベンダーへ変更する
- 経営層が問題意識をもつ
- 社内の人材を育成する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
ベンダーロックインの状況と原因を把握する
今後、DX推進や新しいシステムに入れ替えるには、ベンダーロックインの原因を突き止めることが重要です。ベンダーロックインが発生する要因は、次のような理由が考えられます。
- 現在使用しているシステムの仕様が不明
- 契約期間や保守期間の縛りが原因
仕様がわからないためにベンダーロックインに陥っているのであれば、現在使用しているシステムの設計書を更新するなどの対策が必要です。契約期間や保守期間の問題であれば、解約時の違約金や満了の時点で手続きが行えるように準備しておきましょう。
自立支援が期待できるベンダーへ変更する
ベンダーロックインの問題を解決したければ、既存システムやアプリを新しい環境に移行するマイグレーションの実績が豊富な企業に相談するのも有効な方法です。マイグレーションによる移行作業のトラブルを回避するために、事前にほかのシステムとの運用が可能かを確認しておきましょう。
経営層が問題意識をもつ
ベンダーロックインを解決するには、システムの変更に対し決裁権を持つ経営層が自社システムの状況を把握し、問題意識を持つことが重要です。システムを移行するための費用は高額です。経営層がデメリットを正しく理解すると、システムの移行をスムーズに進めるための予算確保や適切な施策を講じやすくなるでしょう。
システムの移行や業務変更には、実際にシステムを使用している現場社員の協力が不可欠です。ベンダーロックインを脱却するために、社内全体が状況を理解できるようにすることで、社員全員が課題解決の意識を持つようになるでしょう。
社内の人材を育成する
ベンダーロックインの状況から脱却するには、マイグレーションが必要でかなりの期間を要します。マイグレーションベンダーには、自社の業務や現状を理解してもらいシステム移行を進めてもらう必要があります。社内にシステム担当がいなければ、専任のシステム管理者の配置も重要です。
ベンダーロックインの発生を未然に防ぐ方法
ここからは、ベンダーロックインの発生を未然に防ぐ方法を4つ紹介します。
- マルチベンダーでシステム構築を行う
- マイクロサービス・アーキテクチャを目指す
- システムの著作権が自社に帰属するよう契約書を交わす
- システムに関するドキュメントをしっかりと整備する
ベンダーロックインは未然に防ぐことが可能です。
マルチベンダーでシステム構築を行う
ベンダーロックインは、特定企業が独自システムで開発を行うことで起こります。特定の企業やソリューションに依存しないように、マルチベンダーでシステム構築を行うのが望ましいでしょう。マルチベンダーとは、複数の企業が作成したプログラムを合わせてシステムを構築することです。
ベンダーロックインが発生しやすいシステム構造の1つに、モノリシック・アーキテクチャが挙げられます。これはシステムの全機能が1つのモジュールに構成されたシステム構造です。1社にすべてのシステムを依存してしまうと、1つの機能が停止するとシステムすべてに影響を及ぼしてしまいます。
マイクロサービス・アーキテクチャを目指す
ベンダーロックインはシステムをすべて特定の企業に依存することで起こります。システムを単一(モノリシック)として扱うのではなく、機能ごとに分割して独立したマイクロサービス・アーキテクチャを目指す方法もあります。
特定の企業や機能に依存しないので、1つの機能が停止しても、ほかの機能には影響はありません。それぞれの機能ごとにベンダーに発注するマルチベンダーの方法でシステムを構築するとベンダーロックインを防止できるでしょう。
ただし、複数のベンダーに発注を依頼するため開発コストが高額になることや、それぞれの機能ごとにベンダーロックインが発生しないとも限りません。社内のシステム部門で情報をコントロールする必要があります。
システムの著作権が自社に帰属するよう契約書を交わす
ベンダーが特許を取得している独自技術を使用していた場合、ベンダーロックインされてしまうでしょう。フルスクラッチで開発した場合、システムの著作権の帰属が発注者・開発者のどちらに帰属するのかの問題が発生します。事前に契約を締結していなければ、システムの著作権は開発者側のベンダーに帰属します。
システムの著作権が自社に帰属するようにしない限り、ベンダーロックインの原因となってしまうでしょう。システムのパッケージを購入・導入する場合、契約書を確認し著作権を自社に帰属できるか調べてください。
システムに関するドキュメントをしっかりと整備する
現在使用している多くの業務システムは、個人情報や機密情報などセキュリティの高いものがほとんどです。システムを使用するにあたり、様々な社内規定の制定が求められます。社内規定の制作をベンダーに依頼する場合が多いのではないでしょうか。
このシステムに関するドキュメントをコンサルティング会社やベンダー会社に丸投げしてしまうと、ベンダーロックインの原因になる可能性があります。自社の社内規定はベンダーとは関連性のないコンサルティング会社に依頼し、定期的な見直しや運用を行うのが有効な手段です。DX推進を機会に既存ルールの見直し・是正も今後必要になるでしょう。
経営層からヘンダーロックインに対する危機意識を持とう
ベンダーロックインが起こる要因と解決方法を解説しました。システムの開発や保守を特定のベンダーに依存した状態が長く続くことで起こるのがベンダーロックインです。以前はすべてフルスクラッチで開発された独自システムを使用してきました。
そのシステムを使い続けてきたためにベンダーロックインに陥ってしまっている企業が多い状況です。ベンダーロックイン自体にはメリットもあるものの、システムは一定期間を経過すると新しくする必要があります。業務内容も変化します。
ベンダーロックインが起きている企業は、まず原因を突き止めて業務内容の見直しが重要です。自社がこれまで培った技術や経験から、業務フローやシステムの変更は一筋縄にはいきません。経営層も状況を正しく理解し、危機意識をもってベンダーロックインを解消しましょう。
ベンダーロックインに悩んだ際にはEMEAO!へのご相談を一度ご検討ください。
この記事を書いた人
編集部員 濵岸
編集部員の濵岸と申します。コンテンツ作成と取材を主に担当しております。身長が低いため学生時代は「お豆」と呼ばれていました!豆らしく、皆様の役に立つ記事を「マメに豆知識を!」の意識で作成します!どうぞよろしくお願いいたします!