ISOを取得するメリットとデメリットを種類別に解説
公開日:2023.12.16 最終更新日:2024.08.24
顧客からの信用獲得を目的に、ISO認証の取得を検討している方もいるでしょう。 ISOは製品やマネジメントシステムの国際規格を制定する基準です。取得することで顧客からの信頼向上や、商品開発の手順の明確化といったメリットを得られます。
本記事ではISOについて、メリットとデメリットや規格の種類などをわかりやすく解説します。 ISO認証の取得を検討している方は、ぜひ最後までご覧ください。
SOの種類や役割について
ISOの概要について、以下の2点を解説します。
- ISOの種類は2種類
- ISOの歴史と役割
ISOとは何か、特徴や歴史的背景を押さえたうえで、取得するべきかを検討しましょう。
ISOの種類は2種類
ISOには、大きく分けると「モノ規格」と「マネジメントシステム規格」があります。
モノ規格は、製品そのものを認証する規格です。サイズや品質など共通の基準に基づいて製造されるため、安全性だけでなく製品同士の互換性の観点からも有効です。
身近な例が以下のとおりです。
- 非常口のマーク(ISO 7010)
- A4やB5などの用紙サイズ(ISO 216)
- クレジットカードのサイズ(ISO/IEC 7810)
- ネジ(ISO 68)
一方で、マネジメントシステム規格は、サービスや組織運営の品質や管理方法に対する規格のことです。ISOを取得している企業は、運営が国際的な水準を満たしているため、品質や信頼性の担保につながります。
ただし、マネジメントシステム規格の種類は5万以上あります。サービスの品質や環境への配慮など、自社に合った規格で取得するのが重要です。
ISOの歴史と役割
ISOは1947年に、工業規格の国際的な連携や標準化を目的にイギリスで発足。しかし、当時は欧米各国が独自の品質保証を策定しており、円滑な国際取引の妨げとなっていました。
そこで1987年、品質保証のモデル規格である「ISO9000」を制定したことが、マネジメントシステム規格の始まりです。
ISOは1ヶ国につき1機関の加入が原則で、現在172の国が加盟しています。日本では経済産業省に設置される日本産業標準調査会(JISC)がメンバーとなっています。
参考元:ISO Members
ISO認証取得のメリット
ISO認証取得のメリットは、以下の4つです。
- 顧客からの信頼度が上がる
- 組織のシステムが確立する
- 責任と権限が明確になる
- 海外での取引が有利になる
- 業務の品質が担保される
では、それぞれ詳しく解説します。
顧客からの信頼度が上がる
ISOは国際的に認められた基準のため、取得することで顧客からの信頼性や安心感を高められます。 とくに新規分野や業界への参入には、企業の信頼度が重要視される傾向です。
ISO認証を取得することで、国際基準の製品やサービスを提供できる企業として見られます。 なおISOを取得すると、認証機関よりISO認証マークが発行されます。自社サイトや名刺等に記載すれば、営業活動においても有利に働くでしょう。
組織のシステムが確立する
ISO認証を取得するためには、規格の要求事項に沿ったマネジメントシステム(仕組みやルール)を構築しなければなりません。 業務内容を見直す必要があるため、取得する過程の中で組織のシステムが確立します。
システムが確立すれば、担当者が変わったとしても高品質の製品やサービスを提供できます。人員の入れ替わりが多い業種においては、メリットになると言えるでしょう。
責任と権限が明確になる
ISO規格の要求事項の中には、業務の責任と権限に関する項目もあります。ISO認証を取得することで責任と権限が明確になり、トラブルが起きた際もスムーズに対処可能です。
責任と権限の所在が明確ではない場合、なにかトラブルが起きた際に過失の責任を押し付け合うといったケースも見られます。また権限と責任が明確化することで、社員同士の不信感を払拭し、働きやすい環境も構築できるでしょう。
海外での取引が有利になる
海外市場においては、ISO認証の有無を取引条件の1つとしているケースがあります。国内規格のJISでは通用しないケースでも、国際基準のISO規格であれば有利に働きます。
海外展開を視野に入れている企業などにおいては、ISO認証を取得することで市場の拡大につながるでしょう。
業務の品質が担保される
ISO取得の過程において、組織運営の仕組みが一定の水準をクリアする必要があります。
そのため、ISOを取得すれば必然的に業務の品質が担保されます。
さらに、ISOは1年ごとに維持審査を受けなければいけません。PDCAを回して運用を続けることになるため、組織は自然に改善と効率化ができる体制へ変わります。
人が変わっても一定の品質を保ちながら事業を継続できるため、顧客からの信頼や従業員満足度の向上にもつながるでしょう。
ISO認証取得のデメリット
ISO認証取得のデメリットは、以下の3つです。
- 各種マニュアルや書類の作成が面倒
- 取得費用がかかる
- 費用対効果が見合わない可能性がある
- 取得後も維持審査や更新審査がある
1つずつ詳しく見ていきましょう。
各種マニュアルや書類の作成が面倒
ISO認証を取得するためには、規格に沿ったマニュアルや書類の準備や作成が必須です。いずれも本来の業務とは別に実施する必要があるため、多くの時間と労力を要します。
またマニュアルや書類を準備した後は、従業員への教育も必要です。初めてISOを取得する企業などでは、ノウハウがないため苦労する可能性が高いでしょう。
取得費用がかかる
ISO取得には、登録料や審査料といった取得に伴う費用が発生します。金額は規模によって異なりますが、30万〜100万円ほどが相場です。
また現地審査の会場が遠隔地の場合は、審査員の交通費や宿泊費も必要です。さらにコンサルタントにサポートを依頼する場合も、依頼料が別途かかります。
費用対効果が見合わない可能性がある
苦労の末にISO認証を取得したとしても、必ずしも経営や業務に効果が出るとは限りません。 ISO規格は製造業やサービス業などあらゆる業種が対象ですが、中には取得しても効果を実感しにくい業種があるのも事実です。
とくに卸売業や小売業など取引先や顧客の要求が明確でない業種においては、取得の必要性を感じにくい可能性があります。
取得後も維持審査や更新審査がある
ISOは取得すれば終わりというわけではありません。1年ごとの維持審査と、有効期間満了となる3年後に更新審査が行われます。
審査の際の指摘事項への対処ができなければ、最悪の場合認証が取り消しとなるでしょう。組織は常にISO規格に基づく運用を行うため、書類やデータなどの管理費用・リソースが必要になります。
また、審査ごとに費用がかかる点にも注意してください。ISOの取得とそれに伴って発生する費用対効果を見極めてから取得するのがおすすめです。
ISO規格の種類と取得するメリット
数あるISO規格の中で、代表的なものをいくつか解説します。
- ISO9001:品質マネジメントシステム
- ISO14001:環境マネジメントシステム
- ISO 27001:情報セキュリティマネジメントシステム
- ISO 45001:労働安全マネジメントシステム
- ISO 22301 事業継続マネジメントシステム
では、1つずつ特徴やメリットを見ていきましょう。
ISO9001:品質マネジメントシステム
ISO9001は、顧客に提供する製品やサービスにおける品質向上と維持を目的とした規格です。改訂年度を含めた「ISO9001:2015(JIS Q 9001)」という呼び方もされています。
ISO9001は世界中の数多くの企業や団体が取得しており、数あるISO規格の中でも代表的な規格と言えるでしょう。品質管理体制の強化による顧客満足度や利益率の向上など、取得するメリットも多くあります。
ISO14001:環境マネジメントシステム
ISO14001は環境への負荷を低減し、環境に配慮した事業活動を推進することを目的とした規格です。 経営方針に環境方針を採り入れ、方針を基にした計画の実施とともに環境活動を実施し、環境負荷やリスクを軽減するようなマネジメントシステムを確立します。
メリットとしては、 地球環境へ配慮した組織や活動であると国際的に認められることです。企業における環境活動は重要な要素となるため、取得する企業も多い規格です。
ISO 27001:情報セキュリティマネジメントシステム
ISO27001は情報セキュリティマネジメントシステムと呼ばれ、不正アクセスや情報の漏洩といったセキュリティの強化と維持を目的とした規格です。
情報漏洩といったリスクは、どの分野の業種でも起こり得るリスクです。ISO27001の取得では、情報の機密性や完全性を維持できるシステムの構築を求められます。
取得企業は国際基準の情報セキュリティ対策ができると判断されるため、信用度が高まり取引が有利になる可能性があります。
ISO 45001:労働安全マネジメントシステム
ISO45001は労働安全マネジメントシステムと呼ばれる規格で、目的は労働災害の防止と労働者の健康を守ることにあります。
取得するためには労働安全衛生の管理体制の構築や労働災害の防止に加え、労働者の健康管理に対するマネジメントシステムの確立が必要です。
製造業や建築業といった労働災害が起きやすい業種などにおいては、取得するメリットが高い規格と言えるでしょう。
ISO 22301 事業継続マネジメントシステム
ISO22301は事業継続マネジメントシステムと呼ばれるもので、災害や事故などのリスクから事業を継続させることを目的とした規格です。
取得すれば地震や洪水といった自然災害に対し、事業が継続できる体制が確立されていることを国際基準で証明できるようになります。
またシステムのトラブルや大規模停電といった事業の継続を脅かすリスクに対しても、迅速に対策できる企業として評価されるでしょう。
ISOを取得する手順
ISO取得までの流れは以下のとおりです。
- 取得するマネジメントシステム規格を決める
- 取得に向けてコンサルを入れるかを決める
- 審査期間を選択する
- 社内でISOの担当者を決めてキックオフを行う
- マネジメントシステムを構築・運用する
- 内部監査を行う
- 一次審査(文書の審査)受ける
- 二次審査(現地審査)を受ける
- 認証後にISOの取得
認証不適合には、以下の2種類があります。
- 重大な不適合:法令違反やシステムに致命的な問題
- 軽微な不適合:システムや書類などの一部に軽微な問題
重大な不適合の場合は、審査をクリアできず再審査が必要となります。一方で、軽微な不適合の場合は、指定の期間内に指示事項を修正すれば認証されて取得可能です。
また、ISO取得後の有効期間は3年間です。1年毎に維持審査があり、3年後の満了時には更新審査が行われるため、忘れないように運用しましょう。
ISO取得に関する注意点
ISOを取得する際は、以下の2点を押さえておきましょう。
- ISO審査機関を選ぶ際は目的を明確にする
- ISOをやめた企業もある
ISOにはさまざまな規格があり、費用もかかります。自社で本当にISO取得が必要なのか、審査を依頼する前に社内で検討してください。
ISO審査機関を選ぶ際は目的を明確にする
ISOの審査機関は国内だけでも70社以上あるため、選ぶ際は自社に合った機関を選択しましょう。ISO認証の取得だけを目的とした機関もあれば、業務の本質的な改善を目的とする機関もあります。
また、ISO規格の種類によって得意分野も異なります。審査期間を選ぶ際はどの規格で取得を目指しているのかを必ず伝えてください。
ISOをやめた企業もある
ISOを取得する前に、ISOの取得や更新をやめた企業もある点は押さえておきましょう。理由はおもに以下の3点です。
- 審査の度に費用がかかる
- 審査の書類作成に手間がかかる
- 運用や管理のリソースが必要
ポイントは、審査にかかる手間や費用に対して見合った効果が得られるかどうかです。ISOの取得が直接的な業務改善につながる場合は、取得するメリットがあります。
しかし、ISO取得のために膨大なリソースを割かなければならない場合は注意が必要です。
ISO認証でよくある質問
ISO認証でよくある質問を、いくつか紹介します。
- ISO認証はなぜ必要なのでしょうか?
- ISO認証を返上する企業の理由は?
いずれもISO認証を取得する際には、把握しておきたい内容です。では、それぞれ詳しく見ていきましょう。
ISO認証はなぜ必要なのでしょうか?
ISO認証は、顧客や取引先に対し安心感と信頼性を国際基準で証明できる規格です。 企業活動における社会貢献や環境貢献に対する姿勢は、顧客や取引先が企業を判断する際の重要な要素となります。
またISO認証を取得するためには、業務内容を具体的に審査機関へと提示しなければなりません。そのため取引先や顧客からクリーンな企業として認識なります。
企業や組織の信頼性を第三者機関の評価により証明できるのが、ISO規格です。このような側面からも、ISO認証は必要性があると言えるでしょう。
ISO認証を返上する企業の理由は?
以下のような理由からISO認証を取得したものの、返上するケースもあります。
- 維持審査や定期審査への対応が面倒
- 維持費用が高い
- 期待した効果を実感できない
また上記の他にも、保有する必要がなくなったというケースもあります。ISO認証の取得が必須だった取引先との契約が終わった、などがおもな理由です。
ただしISO認証を返上した場合、再び取得する際にはマネジメントシステムの構築が必要になります。 ISO認証の効果は短期間で出るものではありません。継続的な改善により少しずつ効果が出始める場合もあります。
十分に検討した上で、返上するかどうか判断すべきでしょう。
まとめ:目的と業種に合ったISOの規格を取得しましょう
ISO認証の取得は顧客や取引先からの信頼性と安心感が高まるため、ブランド力の向上につながります。
とくに海外市場においては取引条件にISO認証が含まれることも多く、海外展開を視野に入れている場合は取得することで事業の拡大にもつながります。
またISOの規格にはISO9001やISO14001といった規格があり、目的と業種に合った規格を選ぶのが重要です。今回の内容を参考に、ぜひISO認証取得を検討してみてはいかがでしょうか。
この記事を書いた人
hata